辻村みよ子『比較のなかの改憲論―日本国憲法の位置』岩波書店、2014年
しばらく前に、選挙制度改革がしきりに論じられていたころ、メディアでは、一票の格差、議員定数、選挙制度のモデルという3つの異なる問題をごっちゃにし、結局のところ「身を切る改革」としての定数削減を自明のこととする議論が横行していた。ある論者は、アメリカ連邦議会の議員定数などを引き合いにだしながら、口を開けば「政治で飯を食う人間を減らさなければならない」と語っていた。
〈比較〉というアプローチは、時として外国の事例の都合のよいつまみ食いに堕することがある。だが、本来〈比較〉とは、対象を見る視点を豊かにし、自らの位置を自覚化させ、別の可能性の存在に気づかせるなど、重要な機能をもつ知的営みである。
本書は、「96条先行改正論」が強まった1年ほど前から受けた多くの取材依頼のさいの「質問のほとんどは、『外国の憲法では憲法改正手続はどうなっているのか』など、日本と外国憲法との比較に関わる問題であった」ということから、それらの疑問を7つにまとめ、比較憲法的視座から検討することをつうじて、自民党改憲草案をはじめとする改憲論の問題性を浮き彫りにしたものである。論点ごとに参照され、類型化の対象となっている憲法は、いわゆる主要国のそれに限定されることなくきわめて広いことが類例を見ない特徴であり、魅力となっている。改憲論における憲法理解の貧困と「戦争ができる国」をめざすというその政治的意図に照らして、立憲主義の意義を強調し、かつそれを平和的生存権と結びつける著者の立場は鮮明である。と同時に、民主主義(国民主権)の視点も忘れられてはいない。国民投票にかかわる問題点が詳細に検討される一方、著者の持論である「市民主権」論や「カウンター・デモクラシー」という新たな問題提起によって、民主主義を豊富化する展望が示されている。とくにこの部分は、活発な議論の期待されるところである。
一読して、改憲論をめぐって検討しておかなければならない論点の広さと深さ、そして比較憲法学の可能性について考えさせられる好著である。(K.A.)
辻村みよ子『比較のなかの改憲論-日本国憲法の位置』(岩波書店、2014年)
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[2014年2月28日]
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