広渡清吾『学者にできることは何か-日本学術会議のとりくみを通して』(岩波書店、2012年)
被災地住民のために、学者にできることは何か、という本書の問いは、まさに民科法律部会に対する問いかけである。
民科は、学会として、2013年11月、福島の福島第一原発爆発被災地訪問団を派遣し、さらに、被災・被爆3年の本年3月、いわき市で春合宿を開催するなど民主主義を標榜する学会としてその役割の一端を果たしているが、今後も、この問いに答え続けなければならないであろう。
著者広渡清吾さんが、前理事長も務められた民科のリーダ-の一人であることはご存知の通りである。そして、3・11から半年の間、日本学術会議の部長・副会長・会長であった。本書は、一人の学者、そして学術会議という組織が、何を考え、どう行動したのか、その「苦悶と実践の手記」である。
日本学術会議は、筆者によれば、「学術を発展させること、そして同時に学術を社会に役立てること」を活動の目標にしている。この使命を果たすために震災発生直後に幹事会声明を発表、その後、30本以上の提言・声明を公表してきた。
なかでも、6月10日の復興のグランド・デザイン分科会の提言が、一貫して被災地住民の立場に立ち、復興の目標を「いのちと希望を育む復興」とし、「日本国憲法の保障する生存権の確立」と「市町村と住民を主体とする計画策定」をはじめとする7つの原則を掲げた事は、「科学者一人ひとりが社会に対して学術がどうあるべきかをいつも考えていなければならない」とする筆者の真骨頂が最もよく発揮された場面といえよう。
その意味で、筆者および学術会議の努力は貴重なものであったと評価するのであるが、なお科学者・学者そして学術会議、科学者コミュニティといわれる専門家集団と被災地住民、国民との距離を感じざるを得ないのである。とりわけ、被災地住民の苦難を思うならば、もう一歩踏み込んで政府への勧告権(日本学術会議法第5条)を行使すべきであったと思う。
皆さんに御一読いただき、被災・被爆した方々と連帯した「いのちと希望の復興」のためにご尽力いただきたいと願うものである。(H.I)
広渡清吾『学者にできることは何かー日本学術会議のとりくみを通して』(岩波書店、2012年)
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[2014年5月7日掲載]
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