白藤博行『新しい時代の地方自治像の探究』(自治体研究社、2013年)
著者の白藤教授は、公法研究者の中でも数少ない地方自治法のスペシャリストである。いままでに、地方自治にかかわるくだけた文章から学術的な論文まで、多数のものを公表しており、本書は、それらを基礎に執筆されたものである。
政権交代により、地方自治にかかわる改革は、「地方分権改革」や「地域主権改革」にその名称を変えてきており、政権により力点の相違もあるものの、連続している政策が少なくない。白藤教授は、いかなる意図の下に、わが国特有の理論や政策が展開されているかを丁寧に分析し、比較法的知識(ドイツ法との比較)も活用しつつ、単に批判にとどまらず、あるべき地方自治の姿を浮かび上がらせている。
この間の一連の改革における最重要キーワードである、「補完性原理」をみてみよう。世界を見渡しても、地方自治にかかわる改革において、「補完性原理」が核になることが一般的である。しかしながら、わが国における「補完性原理」は、一見したところでは国際的潮流の中にあるが、実際には国際基準に照らして大きな偏差をともなっている。
わが国では、「補完性原理」に「国と地方の役割分担」論や「総合行政主体」論が結び付けられている。「国と地方の役割分担」論において、一方で、自治体が国の防衛・外交に口出しすることを禁止し、他方で、教育・医療・福祉等は自治体が責任をもつものとして国が撤退することが当然のような議論が展開される。さらに、「総合行政主体」論によって、大きいことは良いことだとして、市町村合併や都道府県から市町村への権限移譲が推進される。基礎的自治体の規模が大きすぎて住民自治は機能しないことになる。
一般論として、地方分権改革といった名称からは、地方自治が前進しているように見えるし、確かに一歩前進している面もあるが、二歩あるいはそれ以上に後退しているのが現実である。造語が好きな白藤教授(という評価を白藤教授自身は好まないようであるが)によれば、「改憲」ではなく、「潰憲」型地方分権改革と表現される事態に至っている(紹介コーナーのNo.0009の白藤教授による紹介にも「潰憲」という表現がある。また、本書には、他にも「公率性」や「人権費」といった造語がある)。
この紹介コーナーに地方自治関係の紹介が多くなっているが、市民だけではなく、法学研究者にも、他の法分野以上に現状や問題点が知られていないように思われるので、必読文献の本書はもちろん、他の本にも是非まとめて目を通して欲しい。(榊原秀訓)
※白藤博行『新しい時代の地方自治像の探究』(自治体研究社、2013年)
[自治体研究社のHPにリンクします]
(2014年6月17日掲載)
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