本書は日米の反トラスト法・独禁法適用除外立法の根拠と範囲について論じたものである。独禁法22条(1999年以前は24条)は一定の要件を備えた協同組合の行為に対して独禁法の適用を除外している。近年、政府はそのことを問題視し、これまでに22条但書の見直しや農協連合会に対する適用除外見直しなどを提起してきた。

ところで独禁法22条はアメリカの反トラスト法適用除外立法(クレイトン法6条、カッパー=ヴォルステッド法など)を継受したにもかかわらず、学説は戦後70年間、アメリカでなぜ適用除外立法が生まれたのか、その根拠(必要性)は何か、範囲はどこかといった基本問題についてほとんど研究してこなかった。

本書はそのことを問題視し、①独禁法22条の母法であるアメリカの反トラスト法適用除外立法の根拠は何か、その範囲はどこか、②これらがアメリカの対日占領政策を通じてどのように日本独禁法24条に継受されたのか、③学説は独禁法22条の適用除外の根拠と範囲をどのように考え、また公取委はどのように法運用をしてきたか、④最後に独禁法22条の適用除外の解釈の方向性はどこかについて論じたものである。

以下、本書の内容を一部紹介しよう。アメリカでは19世紀後半に独占が形成され、これに抑圧された労働者、農民が反独占運動に立ち上がり、反トラスト法を制定させる一方、農協が取引を制限する農民の結合とみなされ、反トラスト法が適用された(2章)。そこで反トラスト法に脅威に感じた労働者、農民が反トラスト法適用除外立法運動に立ち上がり、1914年にクレイトン法6条を制定させたが、同法には限界があった(3章)。そこで再び農民が適用除外立法運動に立ち上がり、1922年にカッパー=ヴォルステッド法を制定させた。同法は農民が中間商人と対等な立場で取引できるよう農民に「組合を組織する権利」を付与したもので(協同組合のマグナカルタ)、これが適用除外の根拠である(4章)。なお州反トラスト法適用除外立法は、一時期、裁判所で違憲と判断されたが、後に合憲性が確認された(5章)。この適用除外立法はアメリカの対日占領政策を通じて独禁法24条に継受されたのである(6章)。

以上のように本書は反トラスト法適用除外立法がアメリカ農民の勝ち取った権利であり、それを独禁法24条が継受したことを初めて明らかにした。日本の農民と農協関係者はそのことの意義を深く認識し、独禁法適用除外を擁護してほしいものである。

(高瀬雅男・著者・福島大学名誉教授)

高瀬雅男『反トラスト法と協同組合-日米の適用除外立法の根拠と範囲-』(日本経済評論社、2017年、3,100円+税)