安保関連法案の採決に断固抗議する。

2015年9月20日
民主主義科学者協会法律部会 理事長 吉村良一

このたび、参議院本会議において、明白に憲法9条に違反する「平和安全法制整備法案」と「国際平和支援法案」(以下「安保関連法案」と呼ぶ)が、民主主義的な議論と熟慮の下での審議を望む圧倒的多数の国民の願いに背いて採決された。この、立憲主義、法の支配へのあからさまな挑戦は、これら法の根本原理を基礎として私たちが責任をもって展開している法学研究・教育への挑戦を同時に意味し、また憲法に止まらず社会の法的構成そのものを根幹から揺るがすものであって、その影響は計り知れないものとなろう。民主主義的な法律学の研究・教育に携わる会員で構成されている本学会を代表して、断固抗議するものである。

本学会は、衆議院で安保関連法案が強行採決されたことをうけて、さる7月26日に理事会声明「安保関連法案の強行採決に抗議し、そのすみやかな廃案を求める」を公表した。この声明では、そもそも4つの点で同法案が憲法9条に違反すること、さらに、5つの点で同法案には立法論上ないし解釈論上の重大な問題点があることが国会審議の中で明らかになっていることを指摘するとともに、これらの点がまったく解決されないまま、審議が不十分にもかかわらず、衆議院において与党が強行採決をしたことを批判し、すみやかな廃案を強く求めた。

その後の参議院での審議においても、安保関連法案に関する疑義は深まるばかりであり、質問に対してまともな答弁をしようとしない政府の態度は反知性主義といってよい。それどころか、自衛隊統合幕僚長がアメリカ軍幹部に対して同法案の上程以前にその成立の時期を約束していたり、あるいは同法案に先行して自衛隊において部隊運用の準備が進められていたり、さらには同法案にはない自衛隊とアメリカ軍との同盟調整メカニズムが常設されようとしていたことが明らかになった。日本を先の大戦に導いた<軍部の独走>、その再現ともいえるそうした事態は、まさに<戦争法案>とも揶揄されている同法案の本質を表している。

安保関連法案の危険性を見抜いている多くの国民が同法案の反対運動に立ち上がり、国会前はおろか、全国津々浦々で廃案を求める集会やデモ行進が連日行われている。また、多くの研究者や法律専門家も同法案の問題点や民主主義の危機について、声をあげてきた。そうした活動を通じて、若者を初めとする多くの国民の中に、憲法・立憲主義・平和・民主主義といった日本国憲法の理念への理解と共感があらためて広がって行ったことも重要である。そして、その中で、本学会の会員が様々な立場から積極的な役割を果たしたことに、理事長として敬意を表したい。

このような運動の結果、各報道機関による最近の世論調査においても、同法案を今国会で成立させる必要はないとの回答が、必要性を認める回答よりもはるかに上回るにいたっている。先日来行われた中央公聴会でも、また地方公聴会でも、同法案に反対する意見が、賛成する意見よりも多く陳述された。しかし、こうした多数の国民の声を無視し、かつ、公聴会をうけた特別委員会での総括質疑を経ることなく、安保関連法案は9月19日未明、参議院本会議において採決に付され、成立した。実に遺憾であり、本学会の理事長として、重ねて抗議の意を表明するものである。

今後、本学会としては、今回成立した安保関連法の問題点や日本国憲法の現代的意義について理論的な検討を深めるとともに、安保関連法が憲法9条に違反し、廃止すべきものであることを広く伝えていくために、引き続き学習会やシンポジウム等に積極的に取り組んでいきたい。また、法律研究者として、法的手段をもって同法に基づく自衛隊の海外派遣・活動を阻止しようとする運動に可能な限り連帯・協力していきたいと考える。