憲法9条解釈変更・集団的自衛権行使容認の閣議決定に抗議する声明

1 駐留米軍・自衛隊は憲法9条の戦争放棄・戦力不保持規定に反し、違憲との批判がなされてきた。しかし、政府の憲法9条解釈では、1954年の自衛隊発足後「自衛力」=「自衛のための必要最小限度の実力」論が基礎に置かれ、自衛力を保持し行使することは合憲だとされてきた。その「自衛力」論の下でも、集団的自衛権の行使は「自衛力」を超えるので、違憲だとされてきた。自国が武力攻撃を受けた場合に武力行使できる個別的自衛権は合憲だとしても、自国が武力攻撃を受けていないのに武力行使できる集団的自衛権は合憲だと説明できないとされてきた。この解釈は54年には政府側答弁の中で表明され、72年10月14日の政府提出資料によって確立したものである。54年から数えれば60年、72年から数えても40年以上の歴史を有する。憲法9条と駐留米軍・自衛隊違憲論の存在の下で、少なくともこの集団的自衛権否認解釈は憲法9条の規範性の中核を事実上なしており、戦後日本社会において「国家の統治の基本を定めた法」=実質的意味の憲法の重要な一部として機能してきた。

2 ところが2014年7月1日安倍晋三内閣は、憲法9条解釈の変更を閣議決定した。それは、個別的自衛権・集団安全保障関係の軍事力強化とともに、集団的自衛権行使の容認を含む。「憲法第9条の下で許容される自衛の措置」について、「従来の政府見解における憲法第9条の解釈の基本的な論理の枠内」で検討するとして、前述の72年資料を基礎に置く。この資料は、「わが国みずからの存立」のために「必要な自衛の措置」と言うように、54年以来の個別的自衛権による「自衛力論」の流れの中にある。そのうえで、「自衛のための措置」は「必要最小限度」でなければならないとし、集団的自衛権はそこに含まれず違憲だと結論づけられている。それに対して閣議決定は、「自衛のための措置」の抽象性を利用することによって、個別的自衛権に限定されない「必要最小限度」の「武力の行使」が許容されるとする。このようにして、集団的自衛権という言葉を使わずに、集団的自衛権行使を容認しようとする。このような集団的自衛権行使の否認から容認への転換を「基本的な論理の枠内」にあると主張することに、閣議決定に言う「論理的整合性と法的安定性」があるとはやはり認め難い。

3 そのうえで閣議決定は、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生し、これにより我が国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合において、...必要最小限度の実力を行使することは、...自衛のための措置として、憲法上許容される」とする。この集団的自衛権行使に加えられた要件は、閣議決定に言う「日米同盟の抑止力」の「向上」などが強調されれば、拡張的に運用される可能性がある。さらに、この点に関して再度憲法解釈の変更が行われることもありうる。「上記の『武力の行使』は、国際法上は、集団的自衛権が根拠となる場合がある。
...憲法上は、...我が国を防衛するためのやむを得ない自衛の措置として初めて許容される」と説明されている。この説明における武力行使は、個別的自衛権によるものの印象を与えつつ、集団的自衛権さらに集団安全保障によるものを含んでいる。このように、閣議決定は国民が問題の重大性に可能な限り気づかないように構成されている。

4 集団的自衛権行使として、並走する米艦の護衛など、アメリカが武力攻撃を受け日本に救援を求める事例が中心的に挙げられてきた。しかし、世界最大の軍事大国アメリカについて、これらの事態は軍事的には実際上ほとんど想定しがたい。集団的自衛権による正当化が行われた実例は、ベトナム戦争やアフガニスタン戦争のようなアメリカの行う戦争である。実際に最もあり得る集団的自衛権行使は、このような戦争の前線において自衛隊に戦闘を行わせるかたちで参戦することである。これが集団的自衛権行使容認の政治的本質であり、日本、アジア、世界の平和に決して役立つものではない。
以上のように、憲法9条の規範的意味の中核を閣議決定によって奪おうとすることは、立憲主義に抵触する。また国民的論議を回避しようとする態度は、民主主義に反する。根本的には、集団的自衛権行使の否認を中心にして軍事を抑制している9条の平和主義は価値あるものであり、集団的自衛権容認の解釈変更はもちろん、その次の段階に目指されている集団的自衛権解禁の明文改憲も行うべきではない。

5 閣議決定後まず年内に日米防衛協力ガイドラインの改定が予定され、ガイドラインによる国会審議の実質的拘束が予想される。しかし、国会は憲法73条3号によって条約の締結に対する承認権を認められているように、外交に関して最終的決定権を有し、ガイドラインに現れる問題を追及する責任を負っている。また来年には集団的自衛権行使容認を具体化する法案の審議が予定されている。これについても閣議決定による国会審議の実質的拘束が予想されるが、国会は閣議決定に縛られるものではなく、法案に含まれる問題を解明しなければならない。これらの審議を通して、他国との「密接な関係」や国の存立などに対する「明白な危険」の意味を追究し、閣議決定を撤回させることが、国会の課題になる。これらの国会の動きと結びついて、国民は集団的自衛権容認批判の運動を本格化していかなければならない。

6 民主主義科学者協会法律部会は、規約で「民主主義法学の発展をはかることを目的とする」ことを明らかにしている学会である。「民主主義法学」の立場から、明文「改憲」だけではなく、憲法解釈の変更を含む「改革」の動向も対象にして学問活動を積み重ねてきた。また集団的自衛権行使容認に伴う社会の軍事化は、学会活動の前提となる自由、したがって学問の自由にとっても深刻な脅威になりうることに注意を払っている。

  以上の点から、民主主義科学者協会法律部会は集団的自衛権行使容認を中心とする憲法9条解釈変更の動きに強く抗議し、その実現を阻止することに全力で取り組むことを誓い、ここに本声明を発表するものである。

2014年7月20日
民主主義科学者協会法律部会理事会

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