ご挨拶

小沢隆一(東京慈恵会医科大学名誉教授)

 

 民主主義科学者協会法律部会(略称、民科法律部会)の第27期(2023年11月~2026年10月)理事長に就任し、身の引き締まる思いです。私事で恐縮ですが、私は、2024年3月までの18年間、私立医科単科大学でただ一人の社会科学系の教員として大学「現役」時代の後半を過ごしました。そのような私が、1946年設立の民主主義科学者協会を母体とし、1957年から独立の法律学会として営々と歩んできた当学会の理事長に選ばれたことに、本学会の自由で開かれた雰囲気を象徴するものとして、誇りを感じます。

 法律学会としては風変わりな本学会の名称の意味を、私なりに解析し説明すると、「民主主義」と「科学」を重視する「法学」研究を志す「者」の集まりというものです。第二次世界大戦の終結と日本国憲法の成立、いわゆる「戦後改革」のなかで産声を上げた「民主主義科学者協会」(略称、民科)は、戦前日本の国家と学問に欠落していた「民主主義」と「科学」の精神を基軸として学問研究を進めていこうと志す研究者集団によって結成されました。それは、「民主主義者」、「科学者」として出発せんとする痛切な決意に満ちた人々の創意の所産でした。民科法律部会も、そうした民科の精神を受け継ぐものです。

 この精神が、いまこそ試されている時だと思います。自由・民主主義・平和を原理とする日本国憲法は、成立以来長きにわたって荒波にもまれ続け、とりわけ憲法9条「改正」をめぐる問題は岐路にさしかかっています。1948年制定の日本学術会議法が、その前文で「科学が文化国家の基礎であるという確信に立つて、科学者の総意の下に、わが国の平和的復興、人類社会の福祉に貢献し、世界の学界と提携して学術の進歩に寄与することを使命」とするとうたい、それにより設立された日本学術会議は、この間、政府などからの改編の動きによって、その独立と自律が危機にさらされています。私たちの活動の主たる基盤である大学も、1990年代のいわゆる「大学改革」以降、新自由主義的な政策基調の下で、教育、研究、運営のあらゆる部面で困難をきたしています。法学の分野では、「司法改革」の中から生まれた法科大学院を中心とした新しい法曹養成制度は、後継者養成を含む教育、研究に深刻な影響を与えています。

 これら山積する課題に対して取り組むには、原点である「民主主義」と「科学」の精神を心に刻んで、研究と教育の活動を集団的に行っていくことが肝要です。この精神はまた、ジェンダーや人権、気候変動、大規模災害、感染症、平和と安全保障などの現代社会が突き付ける課題に対する際にも、重要な立脚点となるものと考えます。

 この激動の時代の平和・人権・民主主義をめぐる諸問題に嘆き苦しむ人々の思いや願いに少しでも応えるべく、本学会が、実りある研究成果を上げられるよう邁進していく所存です。本学会の活動に注目していただくとともに、会員として、あるいは会の外からの研究交流を通じて、ご協力くださるよう、どうぞよろしくお願いいたします。