ご挨拶


理事長  楜澤 能生

本学会の誕生は、日本国憲法制定の動きが始まる前の戦後間もない時期に遡ります。

1946年1月12日に民主主義科学者協会(略称:民科)が創立され、本学会はその専門別部会として出発しました。民科は、科学者の二つの決意をもって設立されました。一つは、日本の軍国主義の支配とその下での戦争遂行への反省を踏まえ、二度とその愚を繰り返さず世界平和の確立に献身する決意であり、もう一つは、権力に屈従し迎合した多くの学者の在り方への猛省から、いかなる権力にも権威にも屈することなく真実を追求し、真理の解明に奉仕し、これを人々に語り、伝えていくことを至上の課題とするという決意でした。さらにこの平和と真理への献身を通した社会への奉仕は、民主主義の樹立と堅持によってはじめて可能となると認識されました。組織の名称に「民主主義」の言葉が冠された所以です。

全国組織は1950年代後半に活動を停止しましたが、専門別部会であった法律部会は1957年10月20日に規約を制定し、以後、学会として活動を展開することになりました。規約2条によれば、「本会は、すべての分野における法学研究者の研究上の連絡、協力を促進して民主主義法学の発展をはかることを目的とする」とされています。

「民主主義」は、国家の意思決定の仕方にかかわる概念ですが、他方国家がそもそも意思決定すべきでない領域があり、国家の意思決定から自由な領域を確定する概念を「人権」と呼ぶとすれば、「民主主義」と「人権」は一定の緊張関係に立ちつつ、国家の在り方を決定する重要な2要素をなすということになります。本学会でいう民主主義法学は、当然のことながら「人権」に関する思想と制度をも包み込むものです。また学会で論ぜられる民主主義の中身は、政治・経済・社会の時代状況に対応する中で具体化され、深化してきました。そのことは、現代法論、市民法論、民主主義の法戦略論、共同と連帯論、公共圏論、新自由主義的構造改革批判、改憲論批判、3.11後の「持続可能な社会」論など、この間に学会において取り上げられたいくつかのテーマから理解されることでしょう。

名称の中の「科学者」という言葉の含意も具体化、深化が進みました。学会での研究活動において、法の解釈、適用、立法といった法の実務、実践にかかわる理論構築のみならず、法という歴史現象の社会科学的認識にも従事してきことは、本学会の特徴として特筆できることです。また今日再び軍事研究への誘導が研究資金の配分と引き換えに活発化する中で、科学と国家・社会の関係や、科学者の研究の在り方を、改めて検討する課題にも取り組んでいます。

最後に「法律部会」という名称の含意についてです。民主主義の樹立と堅持という課題を実現するには、法律学の総合力の発揮が不可欠です。公法、私法、基礎法の全領域から法学研究者と法実務家が集い、学術フォーラムを形成していること、これが本学会の大きな長所ということができます。

持続可能社会への大転換という今世紀人類の最大の挑戦に、法律学が如何なる寄与をすることができるかを考えるとき、この歴史の新たな局面で「法律部会」の壁を越えた学際的協働が求められます。また、グローバル市場経済の展開の中で、グローバルなレベルで民主主義をいかに樹立するか、という困難な課題に立ち向かうには、国民国家の壁を越えて、同じく民主主義を志向する海外の学術団体との協働が求められます。今後こうした取り組みを強化していきたいと考えております。

このような問題意識に共感される法学研究者、法実務家の皆さん、学術フォーラム「民主主義科学者協会法律部会」に是非ご参加ください。心から歓迎申し上げます。

2018年皐月